マレーシア調査旅行記(2010年12月6−26)

2010年12月に,University of Kebangsaan Malaysiaの招きで,マレーシアの半島部とボルネオ島とに調査と色々な会議に行ってきた.それを踏まえて,マレーシアの地質とマスムーブメント,大学の地質学教室関係の紹介をする.

クアラルンプール近郊  コタキナバル(ボルネオ)  クンダサン(ボルネオ)

バツー洞窟  ラテライト  キナバル山

マレーシアの料理と自然


クアラルンプール近郊 

花崗岩

三畳紀の花崗岩が広く分布している.

採石場と住宅造成地

クアラルンプール近郊には小高い丘があちこちにあり,新旧の採石場が多い.採石は建築用ではなく,コンクリートの骨材やグリ石に使われるとのことである.廃鉱になった採石場は,住宅として利用されることが多い.クアラルンプールはどんどん拡大して,新しい住宅地が拡大している.マレーシアは熱帯に位置するので非常に風化が激しいと思った.が,意外と丘陵には浅い個所であまり風化していない花崗岩が分布している.これが採石の対象.



クアラルンプール近郊で,採石場あとを住宅地として造成した個所ので,千木良が訪れた場所..ひし形で示す.これらの他にたくさんの採石場がある.右は現在造成中の旧採石場(Ex-quarry)

シーティングは要注意

花崗岩によっては,シーティングが発達している.採石はたいてい,斜面のふもとから上の方に拡大していくため,シーティングの足元を切っていく形になる.そのため,岩盤が不安定になって,崩壊している個所がある.崩壊しないにしても,割れ目が開口して不安定になっている個所が多く認められる.

ほとんど鉛直に切り立った崖の下が駐車場
今までにも何回も崩落があったとのこと
花崗岩に発達したシーティング.それ沿いに隙間ができていることがわかる.ロックボルトがわずかに施工されている.一部にはマイクロシーティングも認められる.

花崗岩の風化

比較的新鮮な花崗岩から赤褐色化して軟質になった強風化部に急激に変化している.日本のような「鬼マサ」(Decomposed granite)はない. 赤褐色に風化した花こう岩.もとの岩石の構造は認められるが,全体に著しく軟質になっている.左端は風化に対して抵抗力の大きな石英脈.

マレーシアでの風化では,圧倒的に化学的風化が卓越している.これは,やはり熱帯のせいか.
風化した花こう岩は,コアストンがある場合には,新鮮なゾーンとマサ土(赤色の土)のゾーンとが次第に移り変わる.が,コアストンがない場合には,急激に両者が移り変わるようである.

マレーシアで使っている岩盤分類は,英国のものと同じで,grade I, II, III, IV, V, VIである.IIは新鮮,IIIは割れ目沿いにのみ変色がある,IVは岩石の基質まで変色,Vは土だがもとの岩石の構造を残している.VIは,もとの構造を失った土.――日本の分類とほぼ対応.大体分類なんて,そんなに詳しく厳密にはできないから,当然か.ただし,gradeVの花崗岩は,日本のD級の花崗岩のように粒子が固くてばらばらに分解しているというものではなく,鉱物自体がほとんど粘土質になってしまっている.

赤く風化した花こう岩もらラテライトとは違う.ラテライトは,もとの岩石の構造が失われ,鉄が集積して,もっと硬くなっている.

斜面災害

丘陵の頂部を切り取って平らにして,土を斜面側に捨てて造成された場所が多い.この捨て土が雨で崩壊して被害を起こしている.ただし,降雨のピークではなく,降雨後,例えば1日たってから発生するなど,降雨に対する遅れがあるのが一般的.この点,日本の花崗岩地域の表層崩壊とは大きく異なる.

1998年にはHighland towerで,高層住宅の背後の斜面がすべり,住宅基礎の地盤を直撃し,その地盤が横にすべり,その上の住宅が最後は前のめりに倒れた.たまたま発生が午後1時頃だったためか,死者は48人ですんだ.今日,12月11日が記念日で,テレビで特別番組が放送される予定.

斜面上方の法肩から下方を見る.白くなっている部分が土砂で覆われた部分 Highland tower.この右側にもう一つ同様の高層住宅があったが,それが前のめりにたおれた.1998年

バツー洞窟

ここはヒンドゥー教の聖地.石灰岩にできた鍾乳洞.石灰岩は多分シルル紀のもの.

高さ100m近い小丘陵の中腹に入口がある.下方の平地から50mくらいのぼる.鍾乳洞の入り口はオーバーハングしていて,多くの鍾乳石がたれ下がっている.入口のすぐ奥は大空洞になっていて,高さやはり50mくらいある.