ボルネオ島 サバ(Sabah)州

サバ州は,半島部(Peninsula)と違って,地質的にかなり複雑でかつ,新しい堆積岩が広く分布している.最も広く分布しているのは,古第三紀のCrocker Formation.
中央北部には,キナバル山がある.今回は,州都のコタキナバル周辺の地すべり事情と,キナバル山のふもとのKundasang(クンダサン)の地すべりの調査を行った.2010年12月13−17日

サバ大学の地質学教室の自然災害研究センターにあった地形陰影図(SRTMから作成).地質構造が如術にわかる.中央西部にある島は泥火山.東西長さが1km程度の丸い泥火山が3つ連なっている.

サバ州の地質図.黄緑色がCrocker Formation. 北部にある赤がキナバル山の花崗岩(中新世から鮮新世,アダメロ岩から花崗閃緑岩).サバ州の東西長さは300km程度.左上のスケールバーが60km.

コタキナバル

ここ10-15年で人工が急激に増加

コタキナバル周辺.赤★は深層地すべり.白☆は表層崩壊.赤○は造成時の盛り土の崩壊.

主に分布するのはMiocene Crocker Formation
東西圧縮による西フェルゲンツの褶曲と衝上断層が発達。結果的に東向き斜面が緩傾斜で西向き斜面が急傾斜山稜が並び、それらの間が低地になった地形配列が形成。

主な斜面災害

丘陵頂 部を切り土して土砂をわきの斜面に捨てる工事が行われて、この捨て土の上に家屋が建てられ、捨て土が崩壊した結果、被害が発生。排水処理も十分ではないことも一因。
自然斜面の地すべりも発生。比較的大規模で、体積は100万m3オーダー。
2006年に発生して、6人死亡したのに、地すべり地の中に幹線鉄塔と変電所を建設されたところもあった。地すべりに対する一般の理解が足りない。電力会社は国有会社。

今後

次のようなことが必要だと感じた.
地すべりに対する一般の理解を得ること
空中写真を使った地すべり地形の判読
造成とその後の利用方法を適切に行うこと

ラテライト

コタキナバルからクンダサンに向かう道沿いで大きな風化帯断面が見られた.UKMのDr. Tajulによると,このような見事な風化断面は見られないとのこと.赤褐色の鉄が濃集して硬くなっている.この露頭の場合,最も地表に近い表層土が手前斜め右にクリープしたと推定される.そのために,地層がクリープした結果形成された構造は少し不自然な形をしている.また,表層土の下の赤いラテライト状面に谷のような形態が見られる.

古第三系のCrocker Formationの砂岩頁岩互層の風化部がクリープしている.その地表に近い部分は破片化したラテライトからなる. ラテライトは,地表にまで達するのではなく,一般に地表から1m程度下に濃集する.緩傾斜の部分に発達するが,斜面が急になると,ラテライトは形成しないとのこと.
風化部のクリープ.物性的には岩石ではなく土に近い. 破片化したラテライト.上の黄色土層との境界は明瞭.おそらく,黄色土層の方がクリープ速度が高いため.境界付近のラテライト片は,境界面に平行に平板面を並べている.
ラテライトと上位の黄色土層との境界付近 破片状のラテライト ラテライト片の平板面が黄色土層との境界面に平行に並んでいる様子
マラッカにポルトガルによって1512年に作られたポルタ・デ・サンティアゴ.ラテライトで作られている. ラテライトの”れんが”.見るからに硬そう. 同左

Kundasang (クンダサン)

Kundasangはキナバル山の麓にあり,日本のいわゆる第三紀地すべりに似た地すべりが多く発生している.マレーシアの半島部には,このようなタイプの地すべりはほとんどない.古第三系のCrocker Formation, Drusmuddy Formationが分布.特に後者は頁岩からなり,破砕して鱗片状になっているところが多く,これが地すべりの大きな原因になっているらしい.

キナバル山(4095m),150万年前の花崗閃緑岩からなる.最終氷期には氷河に覆われていた.周囲にはティルが堆積している.

典型的な後方回転地すべり(Slump, Kundasang南方)

左上に馬蹄形の滑落崖があり,中央から右下にかけて移動体 中央右上と左下と2段に並んだ地すべり

馬蹄形の滑落崖下の地すべり頭部が後方回転.家屋もわずかに後方回転.
上の地図のAからCを望む.
頭部の家屋の被害.亀裂が多数入り,後方に傾いている.上の地図のC
地すべり頭部から下方の緩斜面を見る 左側方の亀裂.地図上のB

Kundasangの集落とキナバル山

Kundasang集落の上を通過する道路下の杭基礎.基礎の向こう側が盛り土になっている. Kundasang集落とその上方の盛り土.地すべりは緩慢な動きを続けている.年間cmオーダー

建物の被害状況

住宅の床は高床式になっているが,それが歪んで倒れそうになっている. 学校の宿舎の通路に1.5m程度の段差ができている. 地すべりの側方部に見られた湧水と池
Trusmudi Formationのせん断された頁岩 同左 同左.鏡肌が発達している.