韓国台風ルーサ災害調査


平成141128日から121日にかけて,韓国の台風ルーサ災害調査に行ってきました.突発災害の科学研究費メンバーのチームに加えていただき,調査してきました.簡単にその結果を書きます.なお,ここに書いたのはあくまでも私の私見で,他の方々の責任ではありませんので,あらかじめお断りします.正式な報告は,後日,出版される予定です.

災害が多発したのは,韓国北東部の江稜(カンヌン)と中央南部の茂朱(ムジュ)周辺です.その中の茂朱にいってきました.茂朱は大田の南で車で1時間くらいです.

茂朱では,役場の情報では,831日に500mm程度の雨が降ったようですが,雨量計が200mmくらいまで観測した後,電気系統が破壊されたので,正確なデータはとれていません.500mmの信頼性に問題がありますが,いずれにしても,非常に強い雨が降ったことは間違いないでしょう.ちなみに1999年の広島豪雨災害では,日雨量約250mmでした.また,茂朱の年間平均降雨量は,約1000mmで,そのうち大部分は6月から9月の4ヶ月に降るのだそうです


災害の概要

台風ルーサは,2002年8月30日から9月1日にかけて韓国を縦断し,多大の被害をもたらしました.最も激しい被害は,北東部のカンヌンで起こり,中南部の茂朱でも被害が発生しました.

 

死傷者:全体の死者は,200名程度だそうです.茂朱郡では,死者7名,負傷者8名(茂朱郡庁情報).死者のうち,3名は土砂による.茂朱郡茂豊面金坪里東方の教会で3名死亡(谷の出口に位置していたため,崩壊から移り変わった土石流によって直撃されました).堆積物から判断して,ここはもともと土石流による沖積錐です.この他にも,谷の出口近くに家があるところはありましたが,微妙に土砂の通路がそれていたため,人的被害にいたっていない模様.これも生活の知恵かもしれません.


地質と地形

茂朱には,プレカンブリア紀の変成岩類とそれを貫く白亜紀の花崗岩類,デイサイト,安山岩が主に分布しています.変成岩類は,主に千枚岩,片岩,片麻岩からなり,片麻岩の中には面構造の発達した花崗岩も含まれているようです.花崗岩は,斑状花崗岩と黒雲母角閃石花崗岩(中粒)を主体としており,前者は,高い山をなし,後者はなだらかな斜面をなすことが多いようです.前者は未観察ですが,後者には日本の広島地域と同様のマイクロシーティングが発達していました.

 本地域は,最高標高1200m程度の高原であり,その北部を錦江が東から西に流れ,その支流が南部から錦江に流れ込んでいます.河岸には段丘が何段か認められました.また,段丘の山側に傾斜10度程度の広い緩斜面が広がっているところがしばしば認められ,これは花崗岩地域に著しいようです.

 

遠方の山は斑状花崗岩からなり,手前の緩斜面はマイクロシーティングの発達した黒雲母角閃石花崗岩(中粒) 黒雲母角閃石花崗岩に発達するマイクロシーティング


崩壊

 茂朱郡庁によれば,崩壊の数は,194個とのことでしたが,道路に被害を及ぼしたもの,あるいは目立つもののみ拾っている可能性が高く,実際にはもっと多いようです.


崩壊の分布

     40平方km四方の茂朱郡の中で被害がひどかったのは,頭部の茂豊面

     茂豊面でも,特に花崗岩分布域で崩壊と土砂流出が著しかった.

     茂豊面では,沢という沢から土砂流出.0次谷の崩壊が多発.

     花崗岩は中粒でマイクロシーティングの発達が著しい.これは,広島花崗岩に類似.

     その他の千枚岩や片岩,片麻岩などの分布地には崩壊は少なかった.ただし,片麻岩の中には花崗岩質片麻岩とされるものも含まれており,これは花崗岩としても良いようにも見える.

     東部に,山火事後に発生した崩壊がみられた.ここでは,明らかに周囲の斜面よりも崩壊密度が高かった.山火事発生時は未確認.

     崩壊の多発した花崗岩体に隣接するひん岩には崩壊は極めて少なかった.これは,ひん岩がほとんど風化しておらず,亀裂質で土層が発達していないことによる.ただ,表層では割れ目が開口し,そこを水が流れ,まれに地表に突出して起こしたと思われる崩壊が認められた.

 


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