2016年4月18日
平成28年(2016年)熊本地震による南阿蘇村における斜面変動の
発生状況 第2報 (2016/4/18 19:00 時点での判明箇所)
京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境研究分野
千木良雅弘・松四雄騎

斜面変動分布図(クリックすると拡大します)
赤い範囲が土砂移動痕跡です.
判読範囲は黒枠で示されています.

分布図の作成方法
2016/4/16 01:25に発生した地震(MJMA7.3)により,熊本県南阿蘇村周辺で発生した斜面変動および地表面に生じた亀裂等をマッピングした. 斜面崩壊のマッピングにおいては,国土地理院の公開したオルソ写真をベースに,地理院および複数の航測会社が公開した斜め写真を参照しつつ,崩壊源と堆積域とを区別せずにポリゴンで囲う作業を行った.また亀裂については,地表地震断層であるか,液状化に伴う亀裂であるかなどの成因を区別せず,線状に連続する亀裂をトレースしている.

現象の予察的説明
斜面崩壊では,この地域一帯の地表を覆う火山灰や軽石などのテフラ(降下火山砕屑物)の崩壊が多く,また,溶結凝灰岩などの硬岩の急崖の崩壊も認められた.カルデラ壁の頂部付近には,Aso4の溶結凝灰岩とみられる硬岩層の上にテフラが堆積していると推定され,大規模な崩壊の場合は,それが溶結凝灰岩の一部とともに斜面頂部付近から崩落した様子がうかがえる(例えば,阿蘇大橋西側斜面の大規模崩壊).これらの崩壊では,崩壊の上方に複数の亀裂が残存している場合が多く認められ,今後の崩壊拡大の危険性がある.またカルデラ壁中腹の急斜面や,カルデラ内の開析谷の谷壁斜面など,傾斜が30°以上の勾配を持つ場所の多くで崩壊が発生している.
今回の地震による斜面変動では,カルデラ内外で傾斜が10-20°程度の緩勾配斜面においても多くの崩壊性地すべりが発生していることが特徴的である(例えば京大火山研究センター周縁の土砂移動).これらの緩勾配斜面には,テフラのマントルベディングが,降下堆積時のまま残存しているものと考えられ,強い地震動によって,水を多く含んだ特定の地層が破壊・液状化するような現象によって地すべりが引き起こされた可能性がある.これは,2011年東日本大震災時に福島県白河で発生した崩壊性地すべりと類似の現象である.すべり面を形成した層位の特定と,その物性および空間分布の把握が今後の課題であろう.
なお,AMEDAS南阿蘇では,4月7日に約100oの降雨があり,地盤が湿潤した状態にあったと推定され,このことも地すべり多発の一因になっている可能性がある.

今後の見通し
短期的には今後,余震で崩壊地が拡大することが考えられるほか,降水に伴って山腹にとどまっていた土砂が土石流化して流出する可能性があり,今回の地震で土砂移動が発生した急勾配流域の出口付近では,特に注意が必要である.また降水浸透に伴ってテフラの含水率が上昇している状況下での余震発生によって,新たな流動性斜面変動が生じる可能性がある.この場合,傾斜が20°に満たないような緩勾配の斜面においても土砂移動が発生する可能性があり,通常考えるよりも広い範囲での警戒が必要になる.長期的には,梅雨期や台風到来期の降水によって,裸地からの土砂流出や,強震動を受けた斜面での降雨を引き金とする新たな崩壊・土石流の発生が懸念される.
(04/18 20時 記す)

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等高線図(8 MB) 斜度図(12 MB)

マッピングは京都大学防災研究所地盤災害研究部門山地災害環境研究分野の大学院生・研究生諸氏 (渡壁卓磨,荒井紀之,平田康人,趙思遠,西山成哲,佐藤達樹,楊哲銘,増田彩)の協力によって行われました.本活動は,日本応用地質学会,日本地すべり学会,砂防学会,日本地形学連合等の学協会に所属する研究者が連携した初動調査の一環として行われています.
データ提供
以下のリンクで斜面変動範囲のポリゴンおよび線状痕跡のポリラインデータを公開します.

KML(on 地理座標系 WGS1984)はこちら KML zip (100 kB)

Shape(on 平面直角座標系 JGD2000 第2系)はこちら SHP zip (150 kB)


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本ページは,2016/04/18 21:00時点までに,現地調査ではなくWeb上に公開された情報によって把握された発災状況をマッピングしたもので,公益性を考え,必要とされる人のために速報的に公開するものです.実際には,さらに多くの斜面変動が発生しているものと考えられます.災害事象は現在連鎖的に進行中です.現場の状況に合わせて適切に警戒・避難することが望ましいと考えられます.

国土交通省 災害情報ページ
国土地理院 災害情報ページ
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