図2.2014/8/20 01:00-04:00の3時間降水量と斜面崩壊の空間分布
および北東-[南西方向に配列した地上雨量計の観測データ
降水分布は地上雨量計の観測データから内挿補完による.


2014年8月21日

京都大学防災研究所
 地盤災害研究部門
 松四雄騎
2014年広島豪雨災害時の斜面崩壊・土石流について
(速報その2: 降雨と崩壊の分布)
8/19夕方から8/20朝にかけてレーダーに捉えられた降雨の経時変化を示す.8/20 00:40から03:50にかけて,広島上空には,雨雲の顕著なテーパリングが見られ,バックビルディングによる準定常降水システムが,約3時間にわたって持続したことがわかる.この現象が広島市北東部に局地豪雨をもたらし,降水イベントの最後半部での大強度降雨が,今回の斜面崩壊・土石流災害につながった.
次に発災の直接の引き金となった8/20 01:00-04:00の3時間降水量の分布を示す.
多くの斜面崩壊・土石流が発生した範囲は,150-200mm/3hの範囲とおおよそ一致している.すなわち局所豪雨の供給範囲が,そのまま発災範囲を規定したことがわかる.

また,発災時刻は100 mm/hに達する大強度の降雨ピークの出現のタイミングと一致する.これは浅い土層が滑落する表層崩壊タイプの斜面災害において,しばしばみられる.このことは大強度の引き金降雨が始まってしまってからでは,避難の猶予がほぼ無いことを意味する.

図1.2014年広島豪雨災害における降水空間分布の推移

8/19 10:00-8/20 07:00まで.
1 hおき表示,途中,未明の災害誘発核心部は10 minおきで,あとからスロー再生.
国土交通省 リアルタイム川の防災情報 近畿地方レーダ雨量をもとに作成.
今回は斜面の高標高部(渓流源頭部)で表層崩壊が発生した(すなわち高い位置エネルギーを持った部分が滑り出した)ことに加え,崩土が渓床に堆積していた湿潤な土石を取り込みつつ流動したため,運動量を大きく減ずることなく,勾配の小さな沖積錐にまで高速度で突入したものとみられる(崩壊・土石流の発生状況はこちら).こうした現象は土石流の運動-堆積過程としては,一般的であり,過去から現在にわたって繰り返し発生してきたものと考えられる.この地域の山地小流域出口の沖積錐は,過去の土石流の繰り返しによって形成された土石流扇状地とみてよく,災害ポテンシャルの高い場所に宅地が造成されていたことが,人的被害の拡大につながった.

同様の被災が想定される場所は日本国内には無数に存在し,そのような立地条件の場に,一切住居の建設をしないで,人々が暮らすことは不可能である.また砂防ダム等のハードな人工構造物を全渓流に配備することも明らかに無理である.よって危険をいち早く察知し,警戒・避難の行動をとる「ソフトな対策」を,行政機関と地域住民がどれほど効果的に連携して実行できるかが,気候変動に伴う極端気象現象の増大期を迎えた日本列島の減災実現においてキーとなる.
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