2014年広島豪雨災害時の斜面崩壊・土石流について(速報その1)


2014年8月21日

京都大学防災研究所
 地盤災害研究部門
  千木良雅弘・松四雄騎

1.はじめに
2014年8月19日夜から20日未明にかけての降雨によって,多数の斜面崩壊が発生し,甚大な災害が生じた.8月21日朝現在で,死者39名,行方不明者7名が報告され,現在も救出・捜索活動が進められている.
千木良は,20日午後朝日新聞のヘリコプター取材に同乗する機会を得た.その結果を含めて,現在の知見を速報する.

2.降雨状況
気象庁の解析雨量データによれば,広島市安佐北区八木付近から北東に伸びる強い雨域があった.その雨域内の三入では,20日の1時から4時の間に約200oという強烈な降雨があった(AMEDAS).おそらくこの雨の一撃によって崩壊・土石流が発生した.

3.崩壊・土石流分布
崩壊・土石流は,図1に示すように,八木付近から可部東を通る北東―南西方向に長い帯状部分(幅2q,長さ10q)に集中して発生した.この集中域から離れるとほとんど崩壊は認められない.今後精密な崩壊分布図を作成し,それと雨量分布図とを比較する必要があるが,崩壊密集地と強雨域とは,おそらく良い一致をしている.
発生した崩壊の多くは,崩壊斜面の下方にある沢を土石流として流れ下った.特に,沢に枝沢がある場合,複数の枝沢の上部で発生した崩壊土砂が移動途中で合流し,さらに谷の土砂を巻き込んで,体積を増し,沢の出口で流広がって広い範囲に被害を及ぼした.
八木地区の土石流被災地は,もともと土石流の堆積によって成長した沖積錐にあり,このことは当地域では土石流が繰り返してきた地域であることを示唆している

山本で発生した崩壊は,直下の家を襲った.この付近には崩壊は極めて少なかったことから,この斜面に特有の条件があったことを示唆している.家屋背後に吹付工のようなものが見える.


図1 1999年の崩壊分布(青)と2014年8月20日の崩壊密集地(赤い細斜線の範囲).
          千木良( 2002. 群発する崩壊−花崗岩と火砕流−. 近未来社, 名古屋.)に加筆

4.地質
崩壊の密集して発生した地域の地質は,ほとんどすべて白亜紀の花崗岩である.一部,八木の崩壊密集部分の斜面上部は,地質調査所の地質図によれば,ホルンフェルスからなると推定される.崩壊が花崗岩内にあるか,ホルンフェルス内にあるかは,今後の調査に負うところである.
なお,千木良他の従前の調査によれば,当地域に分布する花崗岩はマイクロシーティングの発達したものであり,表層の緩んだ土層が崩壊しやすいものである.

5.1999年6月29日の災害との比較
今回の被災地の極近傍では,1999年6月29日に,強い降雨によって多数の崩壊・土石流が発生した.それらの形態は,今回のものに極めて良く似ている.この災害時には広島市で20名の死者が生じた.ただ,比較的人家の少ない地域で発生したため,災害は比較的少なかった.それに対して,今回の崩壊・土石流は人家の多いところで生じたため,比較的狭い範囲でも被害は甚大となった.

6.崩壊・土石流の原因
構成地質が風化してもろくなった花崗岩であったこと,そこに,3時間に200oを超える強烈な降雨があったことが,崩壊・土石流の原因である.
今後も,当地域に1時間に20o程度を超えるような降雨があれば,不安定になっている土砂が崩壊する可能性がある.
同様の地質・地形条件は被災地周辺に広く分布しており,そうした地域にこのような強烈な降雨があれば,今回と同様の災害が引き起こされる可能性が高い.

   
 八木地区を北から臨む.右側の斜面から土石流が麓に至った.  八木地区北方
 八木地区  緑井地区
 可部町高松山  可部東
 可部東  山本