霊山巡検

2014.7.2(晴)

参加者:教員2名 研究員1名 学生9

行先:滋賀県多賀町

   混在岩の露頭→桃原の大規模崩壊地→フズリナ化石→河内の風穴→高室山のドリーネ群

 

今回の巡検のテーマは,石灰岩とその地形(カルスト)を観察することである.今回の巡検先は,以前にも訪れたことがあり,巡検ログ(004)として残っているので,そちらも参照していただきたい.

 

混在岩の露頭

まず混在岩の露頭を観察した.この露頭は,尾根に近い道路沿いの露頭のため強風化しているが,写真1に示すように,泥岩基質中に砂岩の円礫が点在している.この円礫が球状風化で出来たものではないことは,礫と基質との境界部に砂岩の風化物が存在しない,つまりで異質の基質中に埋まっていることからわかる.写真2は,基質物を写したもので,やはり径が数cmの亜円礫が泥岩基質中に含まれている.基質部の泥岩は,せん断変形をあまり受けておらず,鱗片状劈開や条線は認められない.この露頭だけでは,メランジュであるかどうかはよくわからないが,この混在岩の成因は,テクトニック(地殻運動)というよりもオリストストローム(泥質物の多い地層が海底地すべりなどによって移動し,それが再堆積してできた層)のようであると思われる.円形の砂岩礫は,海底地すべりに伴い,ある程度固結した砂岩層が海底の泥を巻き込みながら流下した結果,形成されたものかもしれない.

   写真1 泥岩基質中の砂岩円礫         写真2 露頭の拡大写真


桃原の大規模崩壊地

 桃原の大規模崩壊地の詳細は,巡検ログ004にあるので,これとかぶらないよう報告を行う.

~崩壊地での現地観察~

Step1.

・崩壊地をスケッチする

  特徴を捉えるため.後で写真を見返しても思い出せないことが多いが,スケッチをすると自分が何を見たのかがわかる.下手でもいいからまずは描くことから始める.

・地形図をもとに崩壊地の断面図を書く

  滑落崖の高さ,移動体の形などをとらえる

Step2.

・周囲の地形や地形図などから元の地形を想像・復元する

  地形図や空中写真等で確認

Step3.

・スケッチや断面図と,もう一度眼前にある地形とを照らし合わせる

  崩壊源や土砂供給量をおおまかで良いので推定する

 

現地で確認したものは,現地で出来る限りまとめる.

~後でやろうとしても,肝心なことを思い出せない~

 

 桃原の崩壊地付近の河床には大きな角礫(1 m以上)がゴロゴロ転がっている.斜面の崩壊が起こった跡が確認できない河内の風穴付近の河床は,1 m以下の円礫が卓越していた(ただし河川改修の影響があるのかもしれない).このように,河川に供給される巨礫の存在も,崩壊が起こったことを確認できる証拠の一つとなろう.また,石灰岩は水によく溶解するため,崩壊源から離れるにつれて,巨礫のサイズが急速に低下する.

 

 

玄武岩(緑泥石)と石灰岩の露頭

先ほどの砂岩礫を含む混在岩の露頭から,林道沿いに車で数100 m移動すると,暗緑色の玄武岩とやや白っぽい石灰岩ブロックが接した露頭が現れた.この石灰岩は,中に含まれるフズリナ等の化石から石炭紀からペルム紀に形成されたものである.石灰岩と玄武岩との関係は,断層で接しているようには見えない.また,砂岩や泥岩等の陸源性の堆積物はまったく認められない.これらの岩体は,山縣(2000)によると,ハワイのような玄武岩からなる火山島の一部が崩壊して岩屑なだれを起こし,その山麓に堆積したものが,その後日本列島に付加したものらしい.

写真3 玄武岩と石灰岩の露頭 向かって左側が玄武岩の露頭,右側が石灰岩の露頭である.

 

 

フズリナの化石

 大規模崩壊の観察の後には,石灰岩露頭の中に隠れているフズリナの化石探しをした.示準(時代を示す)化石であるフズリナは,石炭紀~ペルム紀(約36000万年前~約25000万年前)にかけて生息していた有孔虫である.1億年以上も世代交代を繰り返しながら生き続け,進化によってその形を変化させている.

 

 

石灰岩のさざれ石

石灰岩は,雨水に溶けやすい性質を持つ一方で,再沈殿して,割れ目を充填し,礫どうしを膠結する作用を持っている.この露頭は,石灰岩の砕屑ブロックが自身の膠結作用により固結して出来たもので,新しい堆積物と考えられる.

 

 

河内の風穴

日本で4番目に大きな鍾乳洞が,ここ滋賀県の多賀町にある.今までの巡検では,増水の影響で入れなかったようであるが,今日の天気は快晴!夏の青空である.いざ風穴へ!!!

風穴の入り口にたどり着くと,入り口から冷気が出ている.冷やりとして気持ちいい.

鍾乳洞の中の様子はこのような感じ.

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:霊山巡検:DSCN3586.jpg

写真のように広い空間が出来たのは,おそらくこの空間の中央部に層理面が良く発達しており,ここが弱線となって差別的に溶解し,それに加えて天井の崩落が起こったためであろう.層理面に沿って立つと,地下からゴウゴウと水の流れる音が聞こえてくる.どこかに間隙があるのだろうが,確認は出来ない.雨が降った時に,ここの空間は水浸しになると言われているが,これもおそらく層理面の存在が影響しているのであろう.そして,この部分の間隙を通して地下に水が浸透していくはずである.

 この公開エリア内(2014.7.1.現在)の鍾乳洞の特徴として,天井や床に鍾乳石がないことがあげられる.どうして公開エリアには鍾乳石が形成されていないのであろうか.これを紐解くカギは,鍾乳洞上方(地形的に高度が高いところにあるという意味)の地質にある.風穴の入り口付近の地表面の地質は緑色岩(玄武岩)と石灰岩の境界付近になる.これにより,もしかしたら緑色岩エリアで涵養された水が供給されるために,洞窟内に滴り落ちる地下水が鍾乳石の原料となるカルサイト(CaCO3)に飽和せず,沈殿がおこらないのではないだろうか.非公開エリアである鍾乳洞の奥には鍾乳石が形成されているらしい.これは表層の地質も石灰岩であるところを流れてきて,多くのカルサイトが洞窟内に運び込まれるためであろう.

 

 

〜巡検を終えて〜

 今回の巡検では,蛭に血を吸われた人が一名,マダニに食いつかれた人が一名出た.巡検にいく場合には,長袖,長ズボンは当たり前で,蛭対策には蛭スプレーやズボンの裾を紐やテープで縛る等の対策が有効のようだ.毛虫に刺された渡壁さん,そうですよね.

 

 

引用文献

山縣毅2000)鈴鹿山脈北部,美濃帯の海洋性岩石の混在:地質学論集,55165-179.

 

作成・編集

T. Watakabe and Y. Arai  2014.7.10.