花脊・白川・大文字山巡検

2014.6.24 (晴れ)

参加者:教員2名,研究員1名,学生8

行き先:花脊→白川→大文字山

 

テーマ

花脊および白川における花崗岩と接触変成帯のつくる地形

 今回の巡検のテーマは,花崗岩の作る特徴的な地形を観察し,また花崗岩の貫入によって形成される接触変成帯(ここでは泥岩・チャート起源のホルンフェルス)の地形との差異を理解することである.

 接触変成岩とは,岩石がマグマとの接触によって(ヤケドして)再結晶することで生じ,とくに花崗岩の貫入によって形成されるホルンフェルスが好例である(鈴木,2000p.924).熱変成作用によって形成された接触変成岩(ホルンフェルス)は,原岩よりも細粒で緻密な鉱物に変化するため,風化に対する抵抗性が強いという特徴をもつ.そのため,花崗岩地形は地形的な低まりを,ホルンフェルスは地形的な高まりを形成することがある.このような地形を,差別削剥地形と呼ぶ.

 

 

〜花脊〜

 花脊の周囲はジュラ紀(Jurassic)のチャートおよび泥岩が広がっており,それらの岩石がつくる付加体に白亜紀(Cretaceous)の石英閃緑岩が貫入している.石英閃緑岩が貫入することによって,チャート・泥岩との境界部分で接触変成作用(contact metamorphism)が起こった.

  写真のように周囲の山々が高くなり,集落の位置する石英閃緑岩の部分の標高は低くなっている.

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:巡検写真:DSCN3525.jpg

  ホルンフェルスと花崗岩の織りなす地形 写真奥にある山の稜線の地質はホルンフェルス,集落のところの地質は石英閃緑岩である.

 

ホルンフェルスの露頭

 花脊峠の分水付近にあるホルンフェルス(チャートおよび泥岩)の露頭を観察した.泥岩およびチャートの風化物がシルトや粘土のような粘着質の物質になっている.もともとチャートは,風化に対して抵抗性があるが,接触変成によって形成されたチャート起源のホルンフェルスは,石英の結晶が大きくなり,結晶粒界に沿った風化の影響を受けやすくなったと考えられる.一般に,差別削剥地形の成因として,単純に,ホルンフェルスが硬くて風化しにくく,花崗岩地形が容易に削剥されるから形成されると言われているが,その考え方は正しいのだろうか?現在の地形が形成されるには,もっと複雑な過程があるのではないだろうか.

 

石英閃緑岩とホルンフェルスの境界

 次に石英閃緑岩とホルンフェルスの境界を探し当てて観察した.ここでは,石英閃緑岩の中に異質の岩片が含まれており,このような異質の岩片のことを捕獲岩(xenolith:ゼノリス)と呼ぶ.これは,マグマが地下深くから上昇する時に異質の岩石を取り込んだもので,冷え固まった後も取り込まれた岩石は性質を変えずに残っている.捕獲岩を取り込んでいる石英閃緑岩は,ハンマーで叩くとすぐに崩れ落ちるくらいボロボロである.

 

石英閃緑岩の球状風化(Spheroidal Weathering

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:巡検写真:DSCN3524.jpg

 花崗岩のなかには,風化する時に,タマネギのように何枚もの殻をもち,その中心部に核石(コアストーン)残すものがある.これが球状風化である.写真の露頭面に点在している凸部が,球状風化によって残されたコアストーンである.ところが,次に行く白川には球状風化はほとんどしていない.どうしてなのでしょうか.知りたい方は,ぜひ,当研究室で研究して下さい!

 

 

〜白川〜

 京都市と滋賀県にまたがる白川では,花崗岩の斜面地形を観察した.白川の地質は,白亜紀に貫入した花崗岩である.

 

花崗岩の斜面

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:巡検写真:DSCN3531.jpg

写真 花崗岩の斜面に掘られたピット(穴)を観察し,表層付近の土層構造がどのようになっているのかを観察中.

中の構造はこのような感じ

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:巡検写真:DSCN3532.jpg

 地表から厚さ10 cm程度の腐植土に覆われ(A層),その下に無機質の卓越する土層が80 cmほどあり(B層),最下部に白い色をしたものが見える.これがサプロライトである.サプロライトとは,岩石としての初生的な構造を残しているものの,風化作用を受けており,手で崩すことができるくらいボロボロになっているものを指す.このサプロライトは,表層崩壊や土層の形成速度を考える時に,重要な手がかりになる.この花崗岩の斜面では,サプロライト中に蓄積した宇宙線生成核種10Beおよび26Alの濃度を測定することによって,サプロライトが土層へと変わる速度,つまり土層形成速度を定量化する試みを進めている.

 

花崗岩地域での表層崩壊

 花崗岩地域では,豪雨や地震が起こった際に表層崩壊が起こることがある.先ほど観察した斜面から南へ数百m行くと,2013年の台風18号が引き金となった表層崩壊跡地があった.この表層崩壊は,土層とサプロライトの境界部分がすべり面となっている.表層崩壊を予測するために,土層の厚さ,つまり地表からサプロライトまでの深さを知ることが,危険度を評価するための一つの指標となる(外山,2011).

説明: DSCN3535.jpg

 

おまけ!

石英,長石,カリ長石を肉眼判別することはできますか?

説明: DSCN3624.JPG

 

 

〜大文字山〜

 次の行き先は,五山の送り火で有名な大文字山周辺である.下の図の中にある黒の太い実線の北側の地質は,花崗岩(白川のものと同じ)であり,南側はジュラ紀の付加体(主に泥岩やチャート)となる.大文字山周辺では,ジュラ紀の付加体の中に花崗岩が貫入したことによって,接触熱変成が起こり,ホルンフェルスが形成された.方位記号からピンクの枠にかけての稜線(黒の太い実線に沿う白色のライン)の地質がホルンフェルスであり,周囲よりも標高が高くなっている.

説明: sirakawa_all_slope.png

図 大文字山周辺の地形図.黒の実線は5万分の1地質図からの花崗岩の境界線,および泥岩とチャートの境界線 緑の点は池谷地蔵,ピンクの丸は花崗岩とホルンフェルスの境界を見ることが出来る露頭の位置,灰色の丸はホルンフェルスの露頭,黒の三角は大文字山山頂,ピンクの枠は,調査予定の流域である.ちなみに,図の左上の,地形がはっきりと見える部分が航空レーザー測量から得られた1 m解像度のDEMで作成した地形の傾斜図であり,残りの部分は国土地理院の5 m mesh DEM(これも航空レーザー測量によるが,解像度がまったく違う!)からのものである.

 

ホルンフェルスの露頭

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Pictures:iPhoto Library:Masters:2014:06:14:20140614-152509:DSCN3426.JPG

 ホルンフェルスの露頭を観察した.ここでは,砂泥互層や古い時代の谷埋め堆積物などを観察することができる.写真左下のものは強風化した砂泥互層の基盤である.写真中の茶色い部分が砂岩,黒い部分が泥岩で,風化して粘土のようなものに覆われている.写真右上の茶色くなっている所は,層理構造が見られないので,谷埋め堆積物であると予想される.両者の間にあるグレーの層は,砂泥互層が風化などの影響を受けて弱化し,ややずり動いて生成された層であろう.

 

 

説明: Macintosh HD:Users:watakabetakuma:Desktop:HP花脊巡検:集合写真.jpg

集合写真 大文字山山頂(標高465.4 m)で!

大文字山の山頂からは,大阪で一番高いビル「あべのハルカス」が見えます.

巡検はこれにて終了!

みなさま,お疲れさまでした.

 

引用文献

鈴木隆介(2000)建設技術社のための地形図読図入門,第3巻:段丘・丘陵・山地:古今書院,p924

外山真(2011)山地斜面における土層厚の空間分布推定とそれを用いた斜面安定性の評価―京都・白川の比叡山花崗岩を基盤とする流域を例として―:京都大学大学院理学研究科修士論文.

 

T. Watakabe  2014.7.10.