DPRI Mountain Field trip log #007
環境地球科学IIIA巡検

比良山地の大規模崩壊・前兆地形

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調査日: 12 Jul. 2011

行き先: 滋賀県大津市白滝山周辺 [白滝山on Google Map]
および 滋賀県大津市葛川梅ノ木町 [町居崩れ on Google Map]

参加者: 教員2名,研究員2名,学生6名 (引率・指導: 千木良先生)

行程: [出発: 8:00] ― [現地着: 10:30] ― [現地発: 17:30] ― [帰着: 22:30]

町居崩れ堆積物の近くの普済寺には,「山崩諸霊之塔」が建立されている.

裏面の碑文は,現場では解読困難であったが,中央防災会議(2005)によれば,
「当村大地震山崩之年代、至今宝暦八戊寅歳、及九十七歳、則是時予勧化於一村檀越而為諸霊百年忌、造立此石塔、亦書写於一字一石之大乗妙典経而埋此塚中、所希依此功徳、諸霊免三途八難苦迹、到無上仏杲、次願当村并葛川谷中除一切悪事災難、自然千吉祥万福徳到来」
と刻んであるらしく,宝暦8年すなわち1758年に災害発生から約100年の記念のために造られたものであるらしい(昔のことだから干支の寅で合わせたのだろう.地震のあった1662年は壬寅).

寛文地震では,日向三方断層と花折断層北部が同時に活動したとする説が提示されており,花折断層の南部は「壊れ残って」いる可能性が指摘されている(中央防災会議,2005).
比良山地西側斜面の危険度評価と変動の監視は,碑文に刻まれた願いをかなえるためには必要不可欠であろう.
比良山から下山の後,町居の大規模崩壊跡を見に向かう.写真は安曇川河岸に立ち,町居崩れの堆積物を南西側から見たもの(白い破線内が堆積物; 矢印は土砂の供給方向を示す).1662年の寛文地震の際,写真右の斜面上部が幅・長さ数百メートルにわたって崩壊し,崩土は対岸にぶつかって止まると共に谷を埋め,天然ダムを形成した.写真の撮影地点も天然ダムに沈んだ場所で,水面は背後にある明王院明王堂の石段(残念ながら現存しない)の3段目にまで達したとの伝承があるとのことである(今村ほか,2002).
川を渡り,谷を下って,
引用文献:
千木良雅弘(2007)崩壊の場所 ―大規模崩壊の発生場所予測.近未来社 256 p.
中央防災会議(2005)1662 寛文近江・若狭地震.災害教訓の継承に関する専門調査会報告書(第一期),168p.
今村隆正・井上 公夫・西山昭仁(2002)琵琶湖西岸地震(1662 年)と町居崩れによる天然ダムの形成と決壊.歴史地震 18,52-58.
文責: 松四雄騎 (015 Jul. 2011)
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ロープウェイの終着駅 打見山山頂付近から,北北西を望む.
目前に広がる小起伏面は,比良山地頂部に広く残る平坦面.おそらく山が隆起して高くなる前にその概形が形成された前輪廻的な地形と考えられる.はるか遠く 葛川谷を越えて向こう側に続く青い山々も定高性を持っているようにみえる.
矢印で示したあたりが,目的地である長池.破線の道のりでアクセスする.
山頂の小起伏面上には種々の山体重力変形のシグナルがみられる.写真はそのひとつで,破線より向こう側が,山体西側斜面のずり落ちに伴って沈下している.
到着(12:20)!
こんなところに池が!
まずは びわ湖バレイのロープウェイで,何の苦もなく,800 m登って標高1000 mへ!
琵琶湖西岸断層による大起伏の比良山地東斜面と扇状地を眺めながら.
遠くには琵琶湖大橋も見える.
遠くに琵琶湖を眺めながら出発! (10:30)

今回の巡検の目的は,大規模崩壊の前兆現象である山体の重力変形によって形成された地形を観察するとともに,過去に発生した大規模崩壊地における斜面の地質構造,崩土の運動・堆積の様相,天然ダムの形成と決壊のプロセスについて学ぶことです.
調査地である比良山地では,花折断層に面する西側斜面において,1662年の寛文地震の際に町居崩れと呼ばれる大規模崩壊が発生しています.現在,この南部にある白滝山周辺の山頂平坦面には,山体の重力変形に由来するとみられる凹地やリニアメントが観察され,同様の崩壊の発生が懸念されています.

町居崩れの崩壊源(A)と堆積物(B).堆積物は採石場となっている.
かつて,この下には旧町居村が存在したが,村人約300人のうち,この土砂災害によって約260人が亡くなったらしい.また,崩土による天然ダムの湛水高は37 mに達したと見積もられている(今村ほか,2002; 中央防災会議,2005)
休憩(〜11:40)をはさんで,
夏の緑の中,最後の登り.
今回の目的地のひとつ,長池(東岸から西側を写す).ここはかつて小起伏面上を東流する谷の最上流部であったが,山体の重力変形によって谷頭部が落ち込み,谷が切断されて湿地を形成している.
この付近では航空レーザー測量による詳細なデジタル地形情報が得られており,長池と同様の成因をもつとみられる大小の凹地や,リニアメント,移動体の存在が指摘されている(千木良,2007).