DPRI Mountain Field trip log #006
環境地球科学IIIA巡検

和泉層群および三波川変成帯の面構造を持つ岩盤にみられる
重力性変形

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次の写真は流れ盤斜面下部のもの.ある箇所では片理同士がずれ,ゆがみ,割れ目が開口したり(←左写真),ある箇所では面構造がばっさり切られ,ギザギザした破断面の近くでは,割れた岩片がずれたり,わずかに回転したりしている(↓下写真).

地表近傍の低拘束力下で重力に降伏した岩盤は,斜面全体では塑性的に振る舞いながらも,微視的にみると脆性的に,折れ,割れ,切れ,引きちぎられ,すべり,曲がりながら,開口割れ目を形成しつつ,変形していく(Chigira, 1992).これが岩盤クリープ(mass rock creep)と呼ばれる現象である.
九度山到着.集合ー. 暑い...
じゃ,現在地確認から.

最近はGPS端末に頼ることが多いが,地図上で現在地確認できるように訓練することはかなり大事.周りを見る,地図を読む,また周りを見る,この対照の繰り返しで地形の観察眼が鍛えられるから.

地図が読めるようになってからGPSを使わないと,結構怖いことになる.GPS末端の緯度経度は信用できないことも多々あるので.

調査日: 05 Jul. 2011

行き先: 大阪府泉南郡岬町 [岬町on Google Map]および
和歌山県伊都郡九度山町 [九度山町on Google Map]

参加者: 教員2名,研究員1名,学生5名 (引率・指導: 千木良先生)

行程: [出発: 8:00] ― [現地着: 10:30] ― [現地発: 17:30] ― [帰着: 22:30]

↑ これが片理.白い部分は主として石英,黒い部分は雲母や石墨,緑泥岩,黄鉄鉱などからなる.
雲母や石墨は結晶構造に弱面を持つために一定方向に剥離しやすい.緑泥岩は風化によって粘土(バーミキュライト)化する(Yamasaki and Chigira, 2011).また,黄鉄鉱の酸化は硫酸を作り出し,それがさらなる風化(溶出)を引き起こす(Chigira, 1990; Yamasaki and Chigira, 2011).
こうした化学風化が物理的破壊を促し,最終的に,マクロな岩盤の変形を引き起こす.

今回の巡検の目的は,面構造をもつ岩盤が地表近傍で重力によって変形する様子を観察し,その構造的特徴および斜面変動とのつながりを理解することです.ここでは和泉層群の砂泥互層(岬町)と三波川変成帯の泥質片岩(九度山町)を対象に,露頭に現れた層理面や片理面あるいは節理面の,向きや傾き,曲がりや割れが,どんな意味を持っているのか,斜面全体の変動とどのように関連しているのかについて学びましょう.

↑さて,次にみる岩石は,泥質片岩.片岩(schist)は,変成を受ける前の源岩が何であるかによって種々の分類がなされるが,共通するのは片理(schistosity)と呼ばれる面構造を持つこと.地形学/応用地質学上で片岩を扱うときはこの面構造がとにかく効いてくる.

シュミットロックハンマー(e.g., 松倉・青木,2004)で叩いてみると,片理に順方向ではR = 60 ± 3 (1 S.D.),片理に法線方向ではR = 32 ± 4 (1 S.D.).このデータは片岩の力学的性質の異方性を示している.
R: 反発値.岩石に押し付けたプランジャーを一定の運動エネルギーのハンマーで打撃し,跳ね返りの距離を百分率であらわしたもの.

この写真は,受け盤斜面の露頭をみている.右の拡大写真が示すように,片理同士はぴったりとくっついていて,面構造は閉じていることがわかる.
さて,件の座屈の部分.

斜面上方からの荷重によって自由面となっている砂岩の層理面が押し出されている.下の模式図(Yokoyama and Hada, 1989)がわかり易い.

前回に来た時と比べると,一部が崩落したようである.どうやら今も少しづつ動いているらしい.
こんな風に変形が進行しつつある場面を間近に見られるケースは珍しい.
岬町の現場到着.
和泉層群の砂岩泥岩互層.
向かって右手の崖面および正面の層理面上に座屈褶曲(Buckling fold)がある.
全体の構造は下の模式図(Yokoyama and Hada, 1989)を参照.
引用文献:
Chigira M. (1990) A mechanism of chemical weathering of mudstone in a mountainous area. Engineering Geology 29, 119-138.
Chigira M. (1992) Long-term gravitational deformation of rocks by mass rock creep. Engineering Geology 32, 157-184.
千木良雅弘 (1998) 岩盤クリープと崩壊―構造地質学から災害地質学へ―. 地質学論集 50, 241-250.
松倉公憲・青木久 (2004) シュミットハンマー: 地形学における使用例と使用法にまつわる諸問題. 地形 25,175-196.
Yamasaki S. and Chigira M. (2011) Weathering mechanisms and their effects on landsliding in pelitic schist. Earth Surface Processes and Landforms 36, 481-494.
Yokoyama S. and Hada J. (1989) Gravitational creep folds in the Izumi Group of the Izumi Mountains, southwest Japan. Journal of Japan Landslide Society 26-3, 10-18.
横山俊治 (1995) 和泉山地の和泉層群の斜面変動: 岩盤クリープ構造解析による崩壊「場所」の予測に向けて. 地質学雑誌 101, 134-147.
岩盤クリープは大規模崩壊(近年は深層崩壊とも)の前兆現象として重要な研究意義を持っている(cf. 千木良,1998).岩盤クリープの運動様式と,変形から崩落に至るまでの発展過程が把握できていれば,どの斜面が危険であるか,その斜面がどれほど危険であるか,などの議論が可能となる.横山(1995)は,重力性変形を鍵として斜面を「集団検診」することを提案している.「病んでいる斜面」が見つかれば,精密検査(ボーリングやモニタリング)へ,という流れになるのだろう.
健康診断に行くと,内科医は聴診器と問診だけで次々と受診者を捌いている.日本の人口は1.3億,医者の数は30万人.日本の50 mDEMのセル数は1.5億,斜面防災科学者の数は...(数は問題じゃないという話もあるが).斜面診断にも,あんな手際の良さは実現可能だろうか.
昼 ・ 休 ・ み
↑ 斜面傾斜方向に平行で層理面に直交する方向の崖面に現れた座屈褶曲.厚い砂岩層に載る砂泥互層部分が変形し,砂岩が前述の節理によってブロック状に割れながら褶曲している.崖面の泥岩部分は窪みとなっており,地表近傍で(例えば砂岩の節理群を通って浸透してきた水による)風化を受けて軟化していることが示唆される.この弱化した泥岩層が互層全体の変形に寄与しているであろうことは想像に難くない.

←砂岩の節理面にみられる羽状構造(plumose texture).
写真では下から上に伸びる放射状の線構造がみえる.節理形成時の亀裂が,この方向に伸展していったことを物語っている.
露頭に取り付いて岩盤の様子を観察.砂岩の層理面(bedding plane)が露出しており,そこには二つの節理群(joint set)が発達しているのがわかる(左写真).3つとも走向傾斜を測ってみよう(右上写真).また,節理のおおよその間隔(joint spacing)はどんなもんかな(図中のスケールは40 cm四方).
これらの互いにほぼ直交する面構造の存在は,斜面プロセスにおいて,重要な役割を果たす.なぜなら,こうした面構造に沿って,最も単純には,例えばほら(右下写真),こんな風にブロックが分離することになるから(cf. 横山,1995).山地斜面の解体は,基本的には構造に由来する弱線を使って進行していくと考えてよい.
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↑座屈部の構造
Fig. 5 of Yokoyama and Hada (1989)
J. Japan Landslide Soc. 26-3, 10-18.

「先生,どうですか.」
「ちょい待ち,いま測る.」
模式図
Fig. 4 of Yokoyama and Hada (1989)
J. Japan Landslide Soc. 26-3, 10-18.
文責: 松四雄騎 (08 Jul. 2011)
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