DPRI Mountain Field trip log #004
環境地球科学IIIA巡検

石灰岩とその地形(カルスト)

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石灰岩特有の溶食形態を二つ.

写真上: 長径が2 mほどの石灰岩ブロックに太い割れ目が開いている.ジョイントに沿って溶食が進み,割れ目の幅が広がっているのだ.単なる開口割れ目と異なっているのは,ジョイントに沿って楕円パイプを半割にしたような状態で,表面付近だけが丸みを帯びて拡幅していること(挿入図).このような形態の開口クラックは,溶食によってのみ形成される.主にこのブロックが地中にあったときに,割れ目由来の(細粒物の詰まった?)水みち(conduit)に沿って溶食が進んだ結果ではないだろうか.

写真下: ピナクル(pinnacle)とその表面に形成されたカレン(karren),あるいはラピエ(lapie).
ピナクルの概型は地中で,カレンは地表に露出後に,それぞれ形成されるようだ.図中のスケールは50 cm.

調査日: 13 Jul. 2010

行き先: 滋賀県犬上郡多賀町(霊山付近)

参加者: 教員3名,研究員1名,学生5名 (引率・指導: 千木良先生)

行程: [出発: 7:30] ― [現地着: 9:30] ― [現地発: 14:30] ― [帰着: 16:00]

お昼! →
(四色そば: 太打ち,細打ち,茶そば,ゆずそば)
おいしい!

最後は台地上にみられるドリーネ(doline).
ドリーネはカルスト特有の出口の無い凹地.その側壁斜面は多くが上に凸(convex)な断面形状を持っている(写真(A)).この形状は,地表面の低下速度が集水面積に比例していると考えると理論的に説明可能である(Ahnert and Williams, 1997; Matsushi et al., in press).
ドリーネの底部はしばしば平らな堆積面だが,ここではその底部がさらに陥没(写真(B))しているものが多かった.
次は,地下の地形,鍾乳洞.
...に入ろうとしたら,なんと天候不良(増水?)で臨時休業!!!
日本で4番目に大きな河内風穴,見たかった.残念...

膠結された石灰岩角礫の堆積物.

一見すると礫岩のように見えるが,もとはルーズな崖錐性堆積物だったのだろう.雨水によるカルサイトの溶解-沈殿により,角礫同士が膠結してさざれ石状の集合体となっている.集合体の中で中空となっている部分には,カルサイトの結晶が成長していた.
石灰岩台地の裾には崖錐がついていることが多いが,このような膠結作用によって,安定な地形へと変化している可能性がある.
また,これは全く未検証の仮説だが,角礫の供給が氷期,崖錐の膠結が間氷期に対応していると想像すると大変興味深い.

桃原の大規模な地すべり(もとの写真(A)に対し,地すべりの構造を書き入れた(B); 実線が尾根のスカイラインおよび馬蹄形滑落崖,破線が地すべり土塊).

石灰岩はそのマスとしての透水性の高さ,および物理的強度の大きさゆえに,しばしば台地を形成する(カルスト台地).この地すべりは,そのような台地の縁で発生したもの.地形図からは,石灰岩のキャップロック構造がすべりを起こしたようにみえる.おそらく初生地すべり発生時には足下の河川が堰き止められただろう.現在は開析(下刻というべきか)が進み,地すべり土塊末端部の河道は狭隘(きょうあい)部となっている.

地すべりの大きさを地形図から読み取れるか?
V = L*W*T
= 0.8*0.5*0.1 (km) とすると,
= 4*107 m3

結構大きい.
この地すべりは発生年代不明だが,やはり地震なのだろうか.
引用文献:
Ahnert, F., Williams, P.W., 1997, Karst landform development in a three-dimensional theoretical model. Zeitschrift fur Geomorphologie, supplement band 108, 63–80.
Matsushi Y., Hattanji T., Akiyama S., Sasa K., Takahashi T., Sueki K., Matsukura Y., 2010. Evolution of solution dolines inferred from cosmogenic 36Cl in calcite. Geology, in press.
文責: 松四雄騎 (13 Jul. 2010)
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今回の巡検の目的は,石灰岩がつくる地形を観察することです.石灰岩(あるいは大理石)は他の岩石の分布域ではみられない特徴的な地形(カルスト)を形成します.カルストにおける地形は具体的にどのような形態を持っているでしょうか,また,それはどのような理由によるのでしょうか.日本ではややマイナー,しかし世界的には大変メジャーなカルストの地形を観察し,その形成メカニズムを考察します.


石灰岩中のフズリナ(紡錘虫: Parafusulina spp.)の化石.

大きさは3-5 mmくらいだろうか.

フズリナは大型の有孔虫の一種で,古生代(特に石炭紀からペルム紀)の示準化石となる.古生代と中生代の境目(P-T境界)で絶滅している.

ちなみにこの岩体の付加年代はジュラ紀.つまり,海底にこの殻が堆積してから,沈みこみ帯で付加されるまでにざっと一億年,さらにこうして地表に現れるまでに,もうあと1億5千万年以上かかっているのだ.