引用文献:
新正 裕尚・折橋 裕二・角井 朝昭・中井 俊, 2002. 室生火砕流堆積物の全岩化学組成: その給源への手掛り. 岩石鉱物科学 31, 307-317.
岩野英樹・檀原徹・星博幸・川上裕・角井朝昭・新正裕尚・和田穣隆, 2007. ジルコンのフィッション・トラック年代と特徴からみた室生火砕流堆積物と熊野酸性岩類の同時性と類似性. 地質学雑誌113, 326-339.
山下透・檀原徹・岩野英樹・星博幸・川上裕・角井朝昭・新正裕尚・和田穣隆, 2007. 紀伊半島北部の室生火砕流堆積物と周辺に分布する凝灰岩の対比およびそれらの給源: 軽鉱物屈折率を用いたモード分析によるアプローチ. 地質学雑誌 113, 340-352.
山本 佑介・千木良 雅弘, 2005. 室生火砕流凝灰岩をキャップロックとする地すべりの分布と形態的特徴について. 日本応用地質学会研究発表会講演論文集 平成17年, 1-4.
まずは室生溶結凝灰岩の下位に位置する白亜紀花崗岩の露頭(上写真)と,転石(下写真).

花崗岩は深層風化していた.
この花崗岩には,白雲母が入っている.転石中の巨晶岩脈(pegmatic dyke)に大きな結晶を発見(下写真白抜き矢印).黒雲母(黒塗り矢印)がその周囲に赤褐色の鉄酸化物を伴い,自身もやわらかくなっているのに対し,白雲母は硬く光沢があって,新鮮なままである.白雲母(KAl2AlSi3O10(OH)2)は黒雲母(K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH,F)2)に比べるとずっと風化に強いのだ.

DPRI Mountain Field trip log #003
環境地球科学IIIA巡検

溶結凝灰岩の地形とキャップロック地すべり

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調査日: 29 Jul. 2010

行き先: 奈良県曽爾(そに)村

参加者: 教員2名,研究員1名,学生5名 (引率・指導: 千木良先生)

行程: [出発: 7:30] ― [現地着: 10:00] ― [現地発: 18:00] ― [帰着: 21:00]


典型的な大規模な柱状節理.極めて急な谷壁斜面をつくっている.この谷壁では,ブロックの一部が崩落している様子が観察できた.曽爾中心部へと続く谷は,溶結凝灰岩の分布域で深い峡谷(gorge)となっている.

ここでみられる室生溶結凝灰岩は,数10 mもの崖高にわたって一様であり,少なくともそれ以上の厚みが一つの堆積層(ユニット)であると思われる.火砕流の発生期は1.5 Ma(岩野ほか,2007)と考えられており,給源は紀伊半島南部とみられているようだ(新正ほか,2002; 山下ほか,2007).室生溶結凝灰岩は,曽爾中心部では厚さ300 mに達する.いったいどれほどの規模の噴火だったのだろうか.給源を決める最大の手掛かり,カルデラ地形は現存していない.侵食によって失われてしまっているのだ.
さて本題.花崗岩の上に載る溶結凝灰岩が造る地形をスケッチしてみよう.
地形図と,地質図と,目の前の山.
どこが地質境界だろうか.地形と地質にはどんな対応関係があるだろうか.地形から地質構造が,地史がイメージできるだろうか.

溶結凝灰岩は平らな山頂部を構成し,その末端は急崖をなす.下位の風化花崗岩は,裾野の緩傾斜面をつくっている.このような地質構造と地形の対応関係をキャップロックと呼ぶ.

↓こんな感じ.これでも一生懸命書いたんですが... え? 主観入りすぎ!?
デッサン? そんな言葉知らん!
↑室生溶結凝灰岩の露頭.ほぼ鉛直に入った柱状節理(columnar joint)のほか,水平方向の板状節理(platy joint)もみえる.

柱状節理は火砕流堆積物の冷却収縮に伴い,溶結した岩体が角柱状に切り離されることによって形成される.一方,板状節理は冷却面と平行にできるようだ.板状節理は柱状節理をまたいで続いてはいないので,形成順としてはプレートよりコラムの方が先にでき,そのあとでコラムにそれぞれ水平方向の割れ目ができたのだろうか.

←凝灰岩の拡大写真.石英・黒雲母・斜長石などの自形鉱物が,ガラス質のマトリックスによって溶結されている.左の風化の進んでいないものに比べ,右側は風化によってマトリックス部分が白濁している.水和だろうか.残念ながら今回はガーネットは見つけられなかった.
最後は室生溶結凝灰岩の下で延性変形を起こしたと思われる露頭.
この露頭は極めて興味深い.まず,礫岩・砂岩・泥岩が,ぐにゃりと粘土をこねてくっつけたように接している(A).このうち,泥岩内部には鏡肌(slickensides)がみられ,せん断的な力が加わった履歴を示している.また礫岩は,チャートや砂岩の円礫と一部に角礫が,マトリックスサポートででたらめに混在した層相を示しており,一見して通常の掃流作用によるオリジナルな堆積構造でないことがわかる(B).しかも礫岩中の一部の円礫は,饅頭が押しつぶされたように放射状に割れ目が入り,マトリックスがその中に流入している(C).これは,マトリックスがまだ十分に固結していないか,あるいは熱によって半分溶かされた様な状態で,各礫に大きな点載荷が加わったことを示しているように見える.このような状態の礫が,ざっと見ただけで15,6個も見つかったろうか.点載荷のベクトルは鉛直方向近くまでずいぶん立っているようだった.こうした現象は,礫同士のコンタクトがある場合に,その接点で発生したものと解釈できる.(D)はその証拠写真である.上部の礫岩によって細長い円礫が押しつぶされ,三つに破断して,まるで刺身を盛り付けたように並んでいる.ちょうど写真中のペンの方向に荷重がかかったように見える.ここでも重要なことは,割れ目がマトリックスまでを切ってはいないということだ.礫の破断後,隙間ができたりせずに,その礫を取り囲むマトリックスが(再?)充填されているのだ.こうした構造が,どれくらいの深さまで認められるのか,高温火砕流による上位の溶結凝灰岩の堆積とどのように関わっているのか,極めて興味深いところである.

今回の巡検の目的は,火砕流堆積物(ignimbrite)の一形態である,溶結凝灰岩(welded tuff)がつくる構造と地形,そしてそのような場の条件で発生する斜面プロセスを理解することです.

行き先の奈良県曽爾村では,室生溶結凝灰岩が原地形を広く覆っています.このような地質構造において,どのような地形が現れ,どのような斜面プロセスが発生しているでしょうか.災害地質学において最も重要な観点の一つ,地質構造と地形そして斜面プロセスのリンケージを学びます.

亀山地すべりの馬蹄形滑落崖.残念ながら地すべり全体は大きすぎて,空を飛ばない限り全景を写真に収めることができない.この写真のスカイラインはほぼ室生溶結凝灰岩の上面にあたる.写真手前側は,地すべりの滑動に伴って形成された凹地.ここでは,室生溶結凝灰岩の下位に曽爾塁層の礫岩・砂岩・泥岩が分布しており,凝灰岩の縁で,このキャップロックを上に載せた堆積岩(特に粘土のある層)がすべりを起こしたものと考えられている(山本・千木良,2005).
滑落崖にあたる斜面にはガリーが無く,透水性が高いことを示す.一方凹地には水がたまっており(亀池),周囲から供給された細粒物か,泥炭などによる目詰めが排水を妨げているのかもしれない.
文責: 松四雄騎 (1 Jul. 2010)
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