降水量分布の解析は,
長野県河川砂防情報ステーション

岐阜県 川の防災情報
国土交通省 水文水質データベース
などで発信されている暫定情報に基づく.

また気象庁との契約によってリアルタイム配信される解析雨量データに基づく.
地形情報は,国土地理院の基盤地図情報(10mメッシュ数値標高モデル)に基づく.

地質情報は,産業技術総合研究所の20万分の一シームレス地質図に基づく.
本災害に関する国土交通省の対応表明および情報発信はこちらで行われています.
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図4.解析雨量から計算した南木曽地域の雨量(青のバーグラフ)と基準化土壌雨量指数
(オレンジのカーブ)の経時変化.関東学院大学講師/首都大学東京研究員 齋藤 仁 博士提供.

土層中にどれほど多くの水分が存在しているかを測る指標として提案されているのが「土壌雨量指数」です.図4に,今回土石流の発生した流域の解析雨量データに基づいて計算した土壌雨量指数の経時変化を示します.縦軸がNormalized Soil Water Index(基準化土壌雨量指数)となっているのは,過去10年程度に観測された最高値に対して,どれほどの割合にまで到達しているかを示しているためです.
南木曽地域では,発災に先立つ数日間に150 mm程度の先行降雨がありました.それによって当日までに既に土壌雨量指数が上昇していたことがわかります.そこに引き金となる強い降雨が付加され,土壌雨量指数が極大となった時点で災害が発生しました.ただし,今回の場合は,土壌雨量指数が過去最高値を更新したわけではありません(70%程度).このことは,表層崩壊や土石流の発生条件として,雨の量の他に,雨の降り方(降雨パターン)もまた,強い影響を及ぼしていることを示唆しています.
今回の雨によって,あるいは一般的に言って梅雨の末期には,すでに多くの水が土層に浸み込んでいますので,今後,より弱い雨でも崩壊や土石流が発生する可能性があり,引き続き警戒が必要です.

このように,極めて局所的で強大な豪雨の発生により,短時間で土砂災害が発生するパターンは,
2010年に広島県庄原市で発生した表層崩壊災害と類似するものです(図2).庄原で発生した豪雨と
今回の南木曽地方の豪雨は,空間的規模においても雨の強さにおいても似ています.
今回も,降雨の中心部では表層崩壊が発生している蓋然性が高いと考えられます.

国土交通省,気象庁および都道府県が公開している雨量モニタリングデータを用いて,土石流を引き起こした降雨の分布を計算しました(図1A).その結果,今回の豪雨は数キロメートル四方の狭い範囲に,2-3時間以内の短時間で,100 mm以上の雨が降ったものであることがわかりました.土石流の発生した流域は降雨の中心部に近く,17:40の土石流発生時刻は,降雨のピーク時刻とほぼ一致しています.南木曽(d) Nagiso)観測点が,土石流発生時点で欠測となったため,一部詳細が不明ですが,降水の中心域は,もう少し北東側にまで延びていた可能性があります(←このことは下図1Bのように解析雨量に基づくデータによって確かめられました).

図1B.気象庁解析雨量から求めた2014年7月9日15:00-18:00に長野県南木曽地方で発生した
局所豪雨の空間分布(レーダー観測値を用いて観測点間の雨量を補完するため,より正確な
空間分布が求められます.) 関東学院大学講師/首都大学東京研究員 齋藤 仁 博士提供.

図2.2010年7月16日15:00-18:00に広島県庄原地方で発生した局所豪雨の空間分布.
図1と比較する際には,縮尺に注意.

図3.土石流の発生した渓流の地質(左)と地形(右)の情報.
いずれも地形陰影図をベースに,カラーで地質分布および斜面の傾斜分布を表わしている.
緑色の細い線と数字は等高線と標高を表わす.

Last update: 11 Jul 2014

2014年7月9日南木曽土石流災害速報

京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境研究分野 松四雄騎

短く強い雨で,表層崩壊と土石流が連鎖的に発生する場合,強い雨が降り始めてから,下流に土石流が到達するまでの時間は短いことが多く,警戒避難の時間的余裕が無い場合がほとんどです.よって,土石流の到達し得る範囲を,市町村などが発行するハザードマップで予め確認しておき,気象庁や国土交通省が発信する雨の情報を注視して,早めの避難行動をとることが,減災につながります.

2014年7月9日17:40頃,長野県南木曽地方で,土砂災害が発生しました. 国土交通省が公開した,
南木曽町読書の梨子沢でとらえられた監視カメラ映像
からみて,土石流が発生したものとみられます.
土石流は,上流での斜面の崩壊などを起点として,土石を大量に含んだ段波が渓流を流れ下る現象で,今回は一部が下流で居住区へと氾濫したために,被害をもたらしたものとみられます.
このページでは,この災害に関する情報を速報的に発信します.

今回,土石流が発生した流域の,地質と地形を図3に示します.土石流となった物質を供給した上流部の斜面は,花崗岩および花崗閃緑岩という岩石で構成されています.また,斜面はおおむね30度以上の急傾斜地となっています.

一般に,花崗岩類は化学的・物理的な風化を受けやすく,地表付近に,力学的に弱い風化生成物からなる土層を形成しています.土層の厚みは,薄い場合は1メートル以下,厚い場合でも数メートル程度です.すなわち,土層は地形のごく表層を覆っているにすぎず,それほど多くの水を溜めこむ能力を持っているわけではありません.強い降雨が表層部に浸透すると,内部の圧力が上昇して,浮力が働き,土層は基盤岩との境界で切れ落ちて斜面を滑りだします.大量に水を含んだ崩土が流動化して,土石流となることは,しばしば観測されています.

図1A.2014年7月9日15:00-18:00に長野県南木曽地方で発生した局所豪雨の空間分布