2014年9月7日

2014年広島豪雨災害時の斜面崩壊・土石流について(速報その4,地質概略調査結果)

京都大学防災研究所 地盤災害研究部門
千木良雅弘・松四雄騎・ツォウチンイン

2014年9月2日〜4日に現地調査を行った.その結果の概要を報告する.調査個所は,次のとおり.
三入南2丁目,可部東6丁目東方から高松山東面,緑井3丁目浄水場〜権現山〜阿武山の尾根沿い
調査の結果,大きな人的被害を生じた土石流は花崗岩の表層崩壊に起因していることが明らかになり,また,崩壊土砂が渓流を流れ下る際に細粒花崗岩の大岩塊を巻き込んだために,土石流の破壊力が大きくなったと推定された.

地質

斜面崩壊・土石流が密集して発生したのは,北東―南西方向に伸びる幅2 q,長さ10 qの帯状の部分である.そこに分布するのは,主に花崗岩と堆積岩起源のホルンフェルスであり,流紋岩の岩脈がわずかにみられる.また,可部東の東方には流紋岩が分布している.20万分の1地質図「広島」では,可部東で北東‐南西方向の断層の北西側に花崗岩,南東側に流紋岩の分布が示されているが,踏査の結果,断層の南東側にも花崗岩が分布していることが判明し,両者の境界は速報その3に示したものに近いことがわかった.

花崗岩には大きく分けて2つのタイプが認められた(図1).粒径が2oから5o程度の中粒花崗岩,粒径が2o以下の細粒花崗岩である.粗粒花崗岩は,今回の調査個所では,浄水場近くにわずかに認められた程度である.細粒花崗岩には,しばしば直径数oのフズリナ化石様の石英粒子を含む場合がある.

細粒花崗岩は,高松山の高標高部と阿武山南西の高標高部に認められた.5万分の1地質図幅「広島」から読み取れるように,花崗岩分布域の山頂付近に細粒花崗岩が分布しているようである.

   
 中粒花崗岩.風化しやすくマサ土になりやすい.また,一般的にマイクロシーティングが発達する.コインは1円玉(直径2p)  細粒花崗岩.風化しにくく,大岩塊をつくりやすい.
   
 中粒花崗岩に発達するマイクロシーティング.左から右に約30°で傾斜する.
緑井8丁目を襲った土石流の最上部の崩壊内.中央の円盤は直径10p.
 フズリナ化石状の石英粒子を持つ細粒花崗岩
   
 細粒花崗岩と中粒花崗岩との接触部(高松山南東面).中粒花崗岩(下)が不規則な形状で細粒花崗岩(右上)に入り込んでいる様子がわかる.  

図1.調査地に認められる花崗岩

断層

20万分の1地質図「広島」に示されている断層(可部東を通る北北東―南南西方向の断層)が認められた.この断層を横断して発生した土石流によって,この断層の破砕帯が露出した.破砕帯の幅は100m〜150m程度と広い.破砕帯には,割れ目が発達し,また,数p程度の幅のガウジを伴う小断層が見られる.この破砕帯の南東側にもほぼ同様規模で同方向の破砕帯がある.この断層破砕帯には熱水変質の認められる部分もあった.
高松山南東側のには,北北西の走向で北東に70℃程度傾斜する断層(破砕帯幅10−20p)が認められ,これに沿って生じた崩壊があった.

   
 可部東6丁目北東の断層破砕帯  可部東6丁目北東の破砕帯の連続露頭
   
 北北西方向で東に傾斜する断層に沿う崩壊.露出岩石は細粒花崗岩.高松山南東面 北北東方向の破砕帯に認められた熱水変質脈(高松山南東)

図2 観察された断層破砕帯と熱水変質脈

崩壊と地質

崩壊には,いくつかのタイプが認められた.

マイクロシーティングの発達した中粒花崗岩の上の土層の崩壊
亀裂の発達した細粒花崗岩上の土層の崩壊
花崗岩の破砕帯上の土層の崩壊
断層に沿うすべり面を持つ風化花崗岩の崩壊
熱水変質した中粒花崗岩の上に載る細粒花崗岩の崩壊
ホルンフェルスの崩壊(未調査)



崩壊調査地位置図



土石流

花崗岩地域に発生した土石流は,いずれも最上部に崩壊を有していた.つまり,崩壊土砂が渓流を流下する時に堆積物を巻き込んで規模を拡大したものと考えられる.大きな災害を引き起こした土石流は,いずれもこのタイプのものである(八木3丁目,緑井7,8丁目,三入地区,可部東地区).八木や緑井地区の土石流の移動域全体は観察していないが,少なくとも最上部付近の観察結果からは,渓床に堆積していた細粒花崗岩の岩塊が土石流に巻き込まれ,それが土石流の破壊力を大きくしたものと考えられる.
 1999年の豪雨災害時の土石流の多くは,粗粒から中粒花崗岩のマサ土の崩壊に起因するものであり,細粒花崗岩の大岩塊には乏しかった.

   
 高松山南東面の崩壊  土石流堆積物に大量に含まれる細粒花崗岩の大岩塊(左の写真内で,高松山山頂直下から始まる最も右側の崩壊堆積物)

図3 高松山南東面の崩壊と土石流

ホルンフェルス分布地の土石流の源頭部は1ヵ所観察したのみであるが,そこでは,表層崩壊というよりも,渓床に堆積したホルンフェルスの岩片主体の土層から湧水が突出して土石流の発端となった様子が認められた.

図4 ホルンフェルスの岩片主体の土層のパイピング崩壊(阿武山南西).岩片にはわずかに流紋岩片も含まれる.


謝辞:調査にあたっては,京都大学防災研究所の大学院生,渡壁卓磨氏・平田康人の両氏に協力いただいた.